日本画家 澁澤卿

2010年07月14日

個展の合間を縫ってイギリスに行ってきました。ロンドンには1993年にブランドの店が立ち並ぶオールドボンドストリートに在ったルフェーブルギャラリー主催で個展を開催して頂いたこともあり数回訪れたことがありますが今回は初めてのイギリス、スコットランドのエジンバラから湖水地方を経てコッツウォルズ地方そしてオックスフォードからロンドンと初夏の風景を堪能してきました。ツアーのメンバーとコンダクターと天気に恵まれ楽しい11日間を過ごしてまいりました。イギリスの風景の色彩は他のヨーロッパの諸国とは違い日本に近い感じでした。日本の風景とヨーロッパの風景の大きな違いは空の存在感と地上の空気の動きです。青い空と白く浮かぶ雲、曇っていても絶えず動いている雲、ヨーロッパの風景を描くにはその空をどう描くかが重要なポイントになります。日本画で使用する岩絵の具では画面で混ぜ合わせることが出来ないために、雲の輪郭や地上の空気の動きを表現するのは難しいかもしれません。その点日本の空には動きが少なく風景画には静けさや安らぎを求めることが多いことから墨や岩絵の具の色彩が向いているのです。イギリスコッツウォルズ地方の民家には茅葺の屋根が残り、緑と色とりどりの花に囲まれたその風情は日本人が求める静けさや安らぎを感じるものでした。昼夜の温度差があるせいで花の色は実に鮮やかで茎には沢山の花を咲かせています。小さな家も大きな家も玄関や庭のガーデニングは競っているかのように個性豊かに飾り立て、私の目を楽しませてくれました。私の住んでいる鎌倉も今世界遺産に登録してもらおうと運動していますが古い大きな敷地の日本家屋が持ち主を失い取り壊されて赤や黄や青に塗った壁の家が長屋のように建てられていきます。そんな状態ですから、住民の生活文明は鎌倉と何も変わらないのに中世の町並みがそのまま残っているエジンバラの町を見てきたらとても恥ずかしくて「鎌倉を世界遺産に」などと口に出せなくなってしまいます。日本は文化の継承をもっと真剣に考えないと取り返しがつかなくなってしまう日もそう遠くないと心配します。一律の消防法を文化的建造物にまで当てはめて、ある大きさ以上の寺院の本堂や塔は鉄筋コンクリートで造らなければならないとか、茅葺は禁止などとしていたら木造建築の技法の継承が途絶えてしまい数十年後には日本の文化遺産は修復もできずに朽ちていくことになってしまいます。世界一美しい国と言われた日本をこれ以上壊さないようにそして直せる人材が残っているうちに修復していくことが国民の義務だと思います。日本から出て日本を見ると日本の良い所と悪いところが良く見えるので旅行は好きです。日本の美しさを私の筆を通じて世界の人々に見てもらえたらと念じて今日からまた制作に精進します。私の絵が未来の人々から「日本には昔こんな景色があったんだよ。」などと言われないことを祈りつつ。

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